極端気象アトリビューションセンター(WAC)
について

極端気象アトリビューションセンター(WAC: Weather Attribution Center)は、日本各地で発生した極端気象について、人間活動による地球温暖化やその他の気候変動がどの程度影響しているかを「イベント・アトリビューション」という科学的手法で分析し、その結果を公表しています。

WACは気象学、気候科学の専門家らによる中立なブランドです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にならい、政策や意思決定に資する(policy relevantな)知見を提供することおよび、極端気象の様相と背景にある地球温暖化や自然の気候変動との関係を広く市民に知っていただくことを目的としています。WAC自身は特定の政策や意思決定の示唆(policy prescriptive)はせず、極端気象に対する気候変動の影響を「見える化」し、気象予報士やリスクコミュニケーションの専門家とも協働して、科学的な分析情報を迅速に発信します。

WACが用いる分析手法は、WACに参画する研究者らが独自に開発したもので、その詳細については学術論文として公表しています。本手法では、観測データや客観解析データの解析に加え、文部科学省の温暖化研究プログラムで創出された大規模気候シミュレーションd4PDFのデータを活用することでイベント・アトリビューションを実施します。

さまざまな極端気象の要因を分離する

「この異常気象は温暖化のせいか」

気候変動は、すでに世界中のあらゆる地域で甚大な影響を及ぼしており、今後さらにその影響が拡大すると予測されています。日本では世界よりも早いペースで平均気温が上昇しており、各地で猛暑や集中豪雨などの異常気象を含む極端気象や気象災害が顕著になっています。

極端気象は、本来自然が持つ「ゆらぎ」の中で偶発的に発生します。これまでは、実際発生した極端気象についてこの「ゆらぎ」と人間活動による地球温暖化の影響を分離することが不可能であったため、極端気象に対する温暖化の影響を科学的に定量化し証明することは困難でした。しかし、近年では「イベント・アトリビューション」という画期的な手法により分析が可能となっています。

特に日本では、周囲の海洋の状況や遠方で発生するエルニーニョ現象等の「ゆらぎ」の影響を評価することが求められます。そのため、人為起源の地球温暖化の影響とその他の自然変動の影響を分離し、可視化する日本独自のイベント・アトリビューション手法が開発され、発展し続けています。

WACは、日本に特化したイベント・アトリビューションシステムを用いて日本における極端気象について「地球温暖化が影響したか」を分析・発信することで、気候科学の公共性を高めるとともに、科学的知見に基づいた気候変動の影響への理解促進に努めています。

正確性と迅速性を両立したWAC手法

WACでは、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」において開発された新しいイベント・アトリビューションの手法を採用しています。この新手法では、人為起源の地球温暖化の影響とその他の自然変動の影響を分離することに加え、統計学の知見を取り入れることで迅速化を実現しました。

従来のイベント・アトリビューションでは、大気や海洋で起こる現象を物理法則に基づく計算プログラムで再現した気候モデルを用いて、「温暖化した現実的な地球」と「温暖化がなかったと仮定した仮想的な地球」を再現し、多量のシミュレーションを実施して両者を比較することで、温暖化が極端気象に与えた影響を評価します。これまでの研究で約7000年分の気候シミュレーションデータが蓄積されています。

WACで採用している手法では、蓄積された気候シミュレーションデータを用いて、統計数学を利用して極端気象の発生確率を算出します。大量のシミュレーションデータの中から分析対象となる極端気象に似た現象が発生する確率を評価することで、発生から数日以内に分析結果を出すことができます。

例えば、2024年7月の高温についての分析では、日本上空の気温が観測された気温を上回る確率は、人間活動による地球温暖化の影響がある現実的な気候条件下では21.3%、温暖化がなかったと仮定し、その他の自然変動の影響のみを受ける仮想的な気候条件下ではほぼ0%であったと推定され、地球温暖化がなければ2024年7月の高温は起こり得なかったことが分かりました。

極端気象アトリビューションセンター(WAC)参加研究者

今田 由紀子
いまだ ゆきこ
東京大学大気海洋研究所 准教授
2010年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東京大学や東京工業大学での研究期間を経て2014年より気象研究所に所属。季節予測モデルを用いた予測可能性研究や水文分野への応用研究、異常気象研究、気候変動・地球温暖化に関する研究を専門とする。日本気象学会の賞や日本地球惑星科学連合 西田賞など受賞多数。国際的には、WCRPのLight House Activityなど複数の委員を務めている。
佐藤 友徳
さとう とものり
北海道大学大学院地球環境科学研究院 教授
筑波大学大学院地球科学研究科を中途退学後、博士(理学)を取得。日本学術振興会特別研究員(PD)、東京大学気候システム研究センター特任助教、北海道大学大学院地球環境科学研究院特任助教、同准教授を経て、現職。専門は大気と陸面・海洋との相互作用や、極端気象をもたらす局地的な気象の長期的変動で、気候変動が地域の気候や社会に与える影響を多角的に研究している。
高橋 千陽
たかはし ちはる
東京大学大気海洋研究所 気候システム研究系 特任助教
名古屋大学大学院環境学研究科博士課程修了。博士(理学)。気象予報士。海洋研究開発機構や東京大学での研究員を経て現職。専門は、極端気象や気候変動に関する研究。
竹見 哲也
たけみ てつや
京都大学防災研究所 教授
京都大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。大阪大学助手、東京工業大学講師、京都大学防災研究所准教授を経て現職。専門は、豪雨・台風など暴風雨・極端気象と気候変動の影響、都市気象災害に関する研究。日本気象学会学会賞など受賞。国際学術誌の編集委員や編集委員長を長年務めている。
森 信人
もり のぶひと
京都大学防災研究所/横浜国立大学 教授
岐阜大学工学研究科博士課程修了。博士(工学)。電力中央研究所主任研究員、大阪市立大学講師、京都大学防災研究所准教授を経て現職。日本気象学会学会賞、土木学会 海岸工学論文賞、文部科学大臣表彰など受賞多数。IPCC第6次評価報告書では日本政府査読者を務めた。専門は極端災害の評価。
渡部 雅浩
わたなべ まさひろ
東京大学大気海洋研究所 教授
2000年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。ハワイ大学研究員、北海道大学准教授を経て現職。専門は気候科学。日本気象学会学会賞、日本地球惑星科学連合西田賞、文部科学大臣表彰など受賞多数。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書執筆者。著書に『絵でわかる地球温暖化』(講談社)など。

協力

WACは以下のプログラム、研究機関と研究開発もしくは成果発信において協力関係にあります。
また発足にあたり、芙蓉総合リース「ゼロカーボンシティ・サポートプログラム」より支援を受けています。