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【研究者コラム】2026年夏の記録的大雨——6事例の温暖化影響を速報分析しました

2026年9月25日
2026年8月中旬から9月上旬にかけて全国で発生した大雨について、WACリサーチフェローである北海道大学大学院地球環境科学研究院佐藤友徳教授による解説コラムを掲載します。 2026年8月中旬から9月上旬にかけて全国で発生した一連の大雨6事例に対して、地球温暖化との関係を速報的に分析しました。 その結果、警戒レベル5相当の防災気象情報が発表された大雨事例のうち3事例(8月13日千葉、8月30日福井、9月5日鹿児島)では、これまでに進行した地球温暖化の影響により、大雨が発生しやすくなっていたことが分かりました。また、8月27日石川・富山、9月8日愛知・岐阜でも同様の傾向がみられましたが、さらなる検証が必要です。一方、9月7日の伊豆諸島北部の大雨については、本分析手法では地球温暖化による降水の減少が確認されました。
8月中旬から9月上旬にかけて、前線や熱帯低気圧などの影響により、全国各地で記録的な大雨が観測された。
気象庁が警戒レベル5相当の防災気象情報を発表した事例のうち、千葉、福井、鹿児島で発生した大雨3事例では、地球温暖化によって大雨の発生リスクが高まっていたと考えられる。石川・富山と愛知・岐阜の2事例も同様の傾向がみられたが、温暖化の影響を明らかにするためには、より詳細な解析が必要である。
一方、熱帯低気圧の影響が大きかったと考えられる伊豆諸島北部の事例については、本手法では温暖化による降水の減少が確認された。熱帯低気圧の強度や周囲の水蒸気量と降水の関係を明らかにするために、数値シミュレーションやより多くのデータを用いた追加解析が必要である。

1. 分析対象イベント

2026年8月中旬から9月上旬にかけて全国で発生した大雨のうち、気象庁が警戒レベル5相当の防災気象情報を発表した次の6事例を対象とします。

  • 8月13日, 千葉(レベル5大雨特別警報、レベル5土砂災害特別警報)
  • 8月27日, 石川・富山(レベル5大雨特別警報)
  • 8月30日, 福井(レベル5大雨特別警報)
  • 9月5日, 鹿児島 屋久島(レベル5土砂災害特別警報)
  • 9月7日, 東京 伊豆諸島北部(レベル5土砂災害特別警報)
  • 9月8日, 愛知・岐阜(レベル5氾濫特別警報, 庄内川)

 

図1:分析対象イベントにおける日本時間9時の天気図(気象庁HPより)。

 

本分析の対象とした6日間について、図1の天気図から、大雨発生時の気象条件を次のように整理できます。8月13日の千葉豪雨では、日本の北東に中心を持つ高気圧や台風17号の周囲を流れる東寄りの風により、関東地方周辺に積乱雲群が発生しました。8月下旬には、日本海上に前線が停滞し、北陸地方に湿った空気が流入しました。9月上旬には、太平洋沿岸付近の前線に向かって、日本の南に位置する熱帯低気圧やその周辺から暖かく湿った空気が流入しました。以降では、こうした大雨発生時の気圧配置の特徴に着目して分析を行います(【補足】分析手法を参照)。

2. 分析結果

図1に示した天気図を対象に、大規模シミュレーションデータセットd4PDFから検索した100通りの類似事例に基づいて作成した48時間積算降水量の分布を図2に示します。この図から、対象事例と似た気圧配置となった日に、どの地域で雨が降りやすいかが分かります。ただし、図2は100通りの類似事例を平均した結果を示しているため、実際に観測された降水量とは必ずしも一致しない点に注意してください。過去実験と非温暖化実験を比較すると、降水量の大きい地域やその周辺では、温暖化による降水量の増加が、多くの事例で確認できます。しかし、9月7日の類似事例ではその逆の傾向となっていることも分かります。

 

図2:類似事例から作成した48時間積算降水量の合成図。左図は過去実験、右図は過去実験と非温暖化実験の差(正の値は温暖化による増加)で、それぞれ100通りの類似事例の平均を表す。右図の赤枠は図3で用いる解析領域を表す。

 

各地域の48時間積算降水量の確率分布を図3に示します。これは、大雨が発生した当日と同じような気圧配置を仮定した場合に、各地域でどの程度の降水量がどのくらいの確率で発生し得るかを表したものです。なお、図3では降水の少ない類似事例が数多く含まれています。これは気圧配置が対象事例と同様であったとしても、水蒸気量や大気の安定度などの条件によっては、降水がほとんど発生しない場合も十分にあり得ることを意味します。また、本手法は気圧配置にもとづいて類似事例を検索するものであり、観測された降水をピンポイントで再現・予測することはできません。このため、図3では、図2に赤枠で示した地方単位で解析している点に注意してください。

8月に発生した千葉、石川・富山、福井の大雨や9月の鹿児島、愛知・岐阜の大雨について類似した気圧配置の事例を解析したところ、200mmを超える大雨の発生確率は、非温暖化実験(青)に比べて過去実験(赤)で高いことが分かりました。この結果は、人為的な地球温暖化によって、同様の気圧配置のもとでも降水が強まり、大雨の発生リスクが増加していることを示唆しています。

例えば8月13日の関東地方では、同様の気圧配置のもとで48時間降水量が200mmを超える確率は、過去実験では21%、非温暖化実験では9%でした。つまり、同じような気圧配置が現れても、温暖化した現在の気候では、200mmを超える確率が2.3倍になっていることを示しています。同様に、その確率は8月30日の北陸地方では8.0倍、9月5日の九州南部では1.5倍と見積もられました。8月27日の北陸地方や9月8日の東海地方でも同様の増加傾向が確認できますが、信頼性の高い評価のためにはさらに多くのサンプルが必要です。

一方、伊豆諸島北部に関連する9月7日の類似事例から作成した大雨の確率分布を見ると、非温暖化実験(青)の方が大雨の発生確率が高いことが分かります。また、9月5日の九州南部では、2つの実験結果が重なり、両実験ともに大雨の確率が高くなっています。両日の事例には、主に「熱帯低気圧と前線」という共通した特徴があります。このような大雨が発生しやすい典型的な気象条件が整った場合には、人為的な温暖化の影響がなくても、災害をもたらすほどの大雨が発生し得ることを示しています。また、対象とした事例では、熱帯低気圧の中心気圧が990~1000hPa程度と比較的高かったことが特徴です(図1)。仮に、より発達した台風が同様の経路で接近した場合には、暖かく湿った空気の流入が強まり、今回を上回る大雨となっていた可能性があります。熱帯低気圧・台風と降水の関係は複雑であり、中心気圧や経路の僅かな違いが降水量や降水分布を大きく変えることがあります。本分析では、日本全国を取り囲む広い領域の気圧配置に着目して類似事例を検索しているため、100通りの類似事例の間でも、熱帯低気圧の位置や強さにはばらつきがあります。上述の複雑性を考慮するには、さらに多くの類似事例を用いた解析や、数値シミュレーションによる検証が必要であると考えられます。

 

図3:各地域における48時間積算降水量の地域内最大値の確率分布。赤棒は過去実験、青棒は非温暖化実験から検索した類似事例に基づく。図中の青・赤の数値は、それぞれの実験について、同様の気圧配置の下で48時間積算降水量が200 mmを超える確率を示す。地域名は気象庁の分類(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/tiikimei.html)に基づく。ただし、9月7日の「関東南部~伊豆諸島」については、使用したデータの解像度が粗いため、海上を含む矩形領域(33.0–36.0°N, 138.5–141.0°E)を用いた。

 

今回の分析では、複数の大雨事例を対象としたことで、温暖化の影響の大きさや現れ方が、個々の事例によって異なることが示唆されました。それぞれの事例における降水の強度は、大気・海洋の状態や地形などの地理的条件に大きく左右される一方、地球温暖化などの人間活動の影響も受けます。本分析で評価された温暖化の影響の大きさは、こうした様々な条件が組み合わさった結果を反映していると考えられます。 

2026年8月~9月には、本分析で対象とした6事例だけでなく、線状降水帯による局地的な大雨を含め、従来の記録を更新する大雨が全国各地で相次ぎました。この中には、都市域に深刻な浸水被害をもたらした事例も含まれます。本分析で使用したデータは水平格子間隔が20kmであるため、線状降水帯などによる局地的な強雨の強度を正確に評価することには限界があります。一方、これまでの研究から、地球温暖化の進行に伴って短時間強雨の発生確率が長期的に高まるとともに、その発生域が徐々に北へ拡大していることが示されています(参考資料2)。こうした変化を踏まえ、気象庁や自治体が発表する防災情報に注意するとともに、見慣れた天気図であっても、これまでの経験を上回る強い雨が発生し得ることを念頭に置き、防災対策を進める必要があります。

【補足】分析手法

全球気候モデルおよび領域気候モデルを用いたシミュレーションによって作成されたビッグデータと機械学習を併用した天気図アナログ法と呼ばれるイベントアトリビューション手法を用いました。同手法は2026年1月の大雪についての分析にも使用しています。(研究者コラム 2026年1月27日【研究者コラム】2026年1月の大雪について、WAC参加研究者による速報的な分析結果の解説コラムを掲載しました)

この手法では、分析対象とした6事例について、日本周辺の気圧配置(海面更正気圧で定義)に着目します。機械学習を用いて、それぞれの事例とよく似た気圧配置を持つ類似事例を、d4PDF(データ出典1)の過去実験と非温暖化実験からそれぞれ100事例ずつ検索し、解析しました(原則として、6事例 × 100類似事例 × 2実験)。ただし、データの制約により、8月13日と8月30日の事例については、それぞれ98事例、97事例としました(本文では便宜上「100通り」と表記)。類似事例の検索では、図1に示したような特定の時刻の気圧配置だけでなく、その前後における気圧配置の推移も考慮することで、気象学的に類似した特徴を持つ事例を選びます(参考資料1)。

迅速な分析を行うため、類似度判定の基準データには、気象庁による前日21時初期値の海面更正気圧の予報値(データ出典2)を使用しました。d4PDFから得られる降水量の解析には、領域気候モデルを用いて水平格子間隔20 kmに力学的ダウンスケーリングしたデータを使用しました。データ取得上の制約から、類似事例は2011~2016年に相当する期間のシミュレーションデータベースから検索しました。したがって、今回の評価は、同期間の温暖化レベルに相当する影響を見積もったものです。対象事例が発生した8~9月の気温は2016年以降も上昇傾向にあることから(参考資料3)、2026年時点の温暖化レベルを考慮した場合には、大雨の発生リスクに対する温暖化の影響が、本分析で得られた結果よりも大きくなる可能性があることに留意が必要です。

(分析・執筆:北海道大学大学院地球環境科学研究院教授 佐藤友徳)

データ出典

  1. 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(https://www.miroc-gcm.jp/d4PDF/index.html)
  2. 気象庁の数値予報データは京都大学生存圏研究所が運営する生存圏データベースによって収集・配布されたものを使用しました(http://database.rish.kyoto-u.ac.jp/)

参考資料

  1. Tamura, K. and T. Sato, 2024: Evaluating how historical climate change affected a heavy snowfall event in northern Japan in mid-December 2021 using two pseudo global warming methods. J. Geophys. Res. -Atmos., 124, e2024JD041553, DOI:10.1029/2024JD041553. (関連プレスリリース「これまでの地球温暖化によって札幌の大雪は強まっている~機械学習と高解像度シミュレーションを組み合わせた新手法で極端気象の要因分析を高度化~」)
  2. Sato, T., K. Nagahiro, and K. Wakao, 2026: Historical increase in hourly heavy precipitation across Japan and its attribution to anthropogenic climate warming. Atmos. Sci. Lett., 27, e70036, DOI:10.1002/asl2.70036
  3. 気象庁,日本の8月および9月平均気温偏差の経年変化(1898〜2026年)