分析手法

極端気象アトリビューションセンター(WAC)の分析手法

WACでは、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」において開発された新しいイベント・アトリビューションの手法を採用しています。この新手法は、統計数学の知見を取り入れることでイベント・アトリビューションの迅速化を実現した、画期的な手法です。

イベント・アトリビューションは、ある極端気象の発生確率や強度について、人為起源の地球温暖化の影響とその他の自然変動の影響を分離・定量化する解析手法です。

従来のイベント・アトリビューションでは、温暖化した現実的な気候条件と、温暖化がなかったと仮定した気候条件下で大量のシミュレーションを実施して発生確率を見積もるため、極端気象発生から結果の提示に1〜2ヶ月を要していました。これに対し、新しいイベント・アトリビューションの手法では、過去に蓄積された大量のシミュレーションデータと観測データから、対象となる極端気象の発生確率を算出する統計関係式を導き出すことで、新たなシミュレーションを実施する必要がなくなりました。本手法を用いることで、極端気象発生から数日程度で確度の高いイベント・アトリビューションの結果を提示することが可能となりました。

従来法と新手法の違いについて

従来法 スーパーコンピューターを使って多数のシミュレーションを行う

  • 極端気象が発生するごとに、スーパーコンピューターを用いて大量の気候モデルシミュレーションを実施
  • シミュレーションの実施に1ヶ月程度かかる

※過去に作り溜めた計算結果は、データベースとして様々な研究に活用

新手法 統計数学を利用した関係式を解き、数日で結果が得られる

  • これまで蓄積した大量のシミュレーションデータおよび観測データ(海面水温変動とそれに関連する大気変動)を用いて、統計数学を用いてPDFの曲線を表現
  • シミュレーションを実施する必要がなく、極端気象の発生後、数日で結果が得られる

新手法を用いることで、従来型の手法と比べても遜色ない結果が得られることが確認できています。例えば下記の図では、2024年7月の高温事例について、従来型の手法とWACで採用している新手法で分析した結果を比較していますが、灰色の曲線(従来型の手法)とカラーの曲線(WACで採用している新手法)がよく一致していることが分かります。

WACで採用している手法と従来型の手法(Large Ensemble法;LE法)によるイベント・アトリビューション結果の比較
2024年7月の高温イベントに対するWAC手法に加えて、ラージアンサンブル実験に基づく従来型のLE法の結果を示します。LE法の現実的な気候条件は灰色実線、非温暖化を仮定した気候条件は灰色破線で示します。灰色の陰影は95%信頼区間を示します。この結果から、WAC手法はLE法による確率密度分布とよく一致している事が分かります。このようにWACで採用している新手法はLE法と比較しても遜色ない結果を短期間で得る事が出来ます。

より詳しい解析手法について知りたい方は、下記の論文も併せてご覧ください(英語のみ、専門家向け)。

雑誌名: Environmental Research: Climate

題名: A new statistical method of rapid event attribution for probability of extreme events: Applications to heatwave events in Japan 

著者名: Chiharu Takahashi*, Yukiko Imada, Hiroaki Kawase, and Tomohiro Tanaka

DOI: 10.1088/2752-5295/ade1f3

URL:  https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2752-5295/ade1f3