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【研究者コラム】2026年6月下旬のヨーロッパの記録的高温について、解説コラムを掲載しました

2026年7月21日
2026年6月下旬のヨーロッパの記録的高温について、WACリサーチフェローである東京大学大気海洋研究所高橋千陽特任助教による解説コラムを掲載します。ヨーロッパの多くの地点で地上気温が最高記録を更新した今回の事例について、WAC手法による分析を実施した結果、6月同時期として過去2番目に高温となった年を基準とすると、地球温暖化の影響により発生リスクが約16倍高まっていたとする参考分析が示されました。今年のレベルの熱波は非常に稀であり、地球温暖化による影響を比較することが難しい事例でしたが、それ自体が今回のイベントの異常さを示しています。
2026年6月下旬に、ヨーロッパの多くの地点で地上気温が最高記録を更新する記録的熱波が観測された。6月21日〜28日平均のヨーロッパ西部上空約1500mの平均気温は18.5℃に達し、6月の同時期として1950年以降で最高となった。
この熱波の発生確率は、2026年の現実的な気候条件でも約0.012%(再現期間は数千年以上)で、夏季のいずれかの時期に発生する確率として評価しても、約0.1% (再現期間は約1000年)であり、地球温暖化の有無に関わらず極めて稀な現象であったと言える。
(参考)6月の同時期として過去2番目に高温となった年の気温を基準として2026年の高温の発生確率を見積もると、地球温暖化の影響によって発生リスクが約16倍高まっていた。

1. 分析対象イベント

2026年6月下旬は、ヨーロッパでは広い範囲で顕著な熱波となり、6月21日〜28日で期間平均したヨーロッパの上空1500mの気温は、1950年以降の6月の同時期としては1950年以降で観測された最高値となり、夏季(6月1日〜8月31日)を通した8日平均イベントとしてみても第2位となりました*1。この期間には、西ヨーロッパの多くの地点で40℃を超える地上気温が観測され、国内最高記録や6月の最高記録を更新しました。

 

図1 高温イベント期間中の大気の状況 
(a) 2026年6月21日〜28日平均の850hPa(上空約1500m。対流圏下層に相当)の気温の平年値からの差を陰影で示す。等値線は、大気の流れの平年値からの差を示す。 (b) 2026年6月1日〜7月4日のヨーロッパの経度帯(西経10度―東経30度)で平均した200hPa(対流圏上層に相当)の東西風(陰影)と500hPa(対流圏中層に相当)の大気の流れ(等値線)の平年値からの差を示す。実線は高気圧性の流れの偏差、破線は低気圧性の流れの偏差を表す。

 

この熱波の要因として、停滞した背の高い高気圧の発達に伴い偏西風が大きくヨーロッパの北側に蛇行したことが挙げられます(図1)。偏西風は6月中旬頃から10度以上も北上し、北緯60度付近で6月末まで非常に強まり、6月下旬は偏西風南側の北緯40度―60度で非常に強い高気圧性の流れが停滞しました*2。ヨーロッパへ南方から持続して高温空気が流れ込み、下降気流や日射の影響も重なり気温の顕著な上昇を引き起こしました*3。

 

2.分析結果

WAC手法を2026年6月下旬の熱波イベントに適用した結果(検証結果は補足を参照)、この時期の上空約1500mの気温が実況の気温(18.5℃)を上回る確率は、2026年の現実的な気候条件では約0.012%であり、再現期間は数千年以上に相当することが分かりました。夏(6〜8月)の期間を通して確率を見積もると、このイベントの発生確率は約0.1%、再現期間は1000年程度となり、極めて稀な現象であったと言えます。

人間活動による地球温暖化が無かったと仮定した(非温暖化)気候条件では発生確率はほぼ0%となり、地球温暖化の有無にかかわらず、このレベルの高温は非常に稀である事が示されました。

今回の熱波イベントは発生確率が非常に低かったため、地球温暖化による影響を比較することが難しい事例となりました。参考として、6月の同時期として過去2番目に高温となった2025年の気温*4(図2の灰色線)を高温の基準として発生確率を見積もったころ、2026年の現実的な条件では約3.6%(およそ28年に1度)となり、平年より約1.6倍高まっていました(図2の赤実線と薄い赤色の山型の差)。非温暖化気候条件では、約0.22%(およそ460年に1度)であり、発生リスクが約16倍高まっていたと推定されます。

ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)は、人為的な気候変動が西ヨーロッパにおける今回の猛暑に与えた影響ついての分析を速報しています*5。2026年6月で最も暑かった3日間の気温は、1976年の6月にはほぼ発生不可能であるとしています。

 

図2 2026年6月21日〜28日の記録的高温イベントに対するEAの結果 
横軸はヨーロッパ域(西経10度―東経15度、北緯40度―55度)上空(図1の黄色枠内)で平均した、高度約1500m(850hPa)の気温、縦軸は発生頻度を示す。赤実線は現実的な(地球温暖化がある)気候条件下、青実線は、地球温暖化が無かったと仮定した場合(非温暖化)の気候条件下における気温の出現頻度。薄い赤色は平年(1991~2020年の30年間)の6月21日〜28日の現実的な気候条件を、青色の山型は非温暖化条件下における出現頻度を示す。黒破線は2026年、灰色破線は同期間で過去2位の高温であった2025年の実測値を示す。

参考情報

*1: 夏季(6月1日〜8月31日)の8日平均気温を平年値からのずれの気温で比較すると、2026年6月21〜28日の期間平均値は、過去最高値(約+7.2度)。

*2: 夏季のヨーロッパ(北緯45度-60度、西経15度―東経30度)上空の500hPa流線関数偏差(大気の流れの平年値からの差)の時系列を以下に示す。1951年以降の各年は灰色線で、2026年は赤色、ヨーロッパ西部(北緯40度―55度、西経10度―東経15度)の8日平均気温が過去1位であった2003年を青色で示す。2026年6月の熱波期間は夏季を通して過去4位の大きさであった。

*3:気象庁報道発表「2026年6月下旬のヨーロッパの記録的な高温とその特徴について」
*4: 6月の同時期として過去2番目の高温は2025年で約15.1°C。
*5: WWAによる2026年6月下旬熱波のアトリビューション速報

補足:WAC手法をヨーロッパの熱波事例へ適用した検証結果

 

 

WAC手法と従来型の手法(Large Ensemble法;LE法)のイベントアトリビューション結果の比較(2025年6月21日〜28日平均の高温イベント)

6月の同時期として過去2番目に高温だったイベントにWAC手法を適用した結果を示します。LE法(従来型のラージアンサンブル実験を用いる方法)の現実的な気候条件は灰色実線、非温暖化を仮定した気候条件は灰色破線で示します。灰色陰影は95%信頼区間を示します。WACによる手法はLE法による確率密度とよく一致している事が分かります。他事例でも検証する必要がありますが、WACの手法はこの時期のヨーロッパの熱波イベントに対して適用可能であることが分かります。

(分析・執筆:東京大学大気海洋研究所 高橋千陽)